はじめに|インフラ工事を甘く見ると開業が遅れる
テナント契約が決まり、内装工事の計画を立て始めた段階で「水道が引き込まれていない」「電気の容量が足りない」と気づくケースは珍しくありません。インフラ整備は内装工事より先に動かなければならない工程が多く、申請から工事完了まで数週間から数ヶ月かかることもあります。開業スケジュールに直結する問題だからこそ、契約前の段階で現況を把握し、費用負担の取り決めをしておくことが重要です。
本記事では、テナント開業時に必要な水道・電気・ガスのインフラ工事について、オーナーとテナントの費用分担の原則、引込工事が必要になるケースとその費用相場、契約容量の選び方、行政や電力会社への申請手続きの流れを実務的な観点から解説します。
オーナーとテナントの費用分担の基本原則
インフラ工事の費用をオーナーとテナントのどちらが負担するかは、工事の性質によって大きく異なります。一般的な原則は以下のとおりです。
オーナー負担とされやすいもの
- 建物敷地内への幹線引込工事(電力会社の本線から建物までの配線・配管)
- 共用部分の設備(共用メーター、共用配管など)
- 既存設備の劣化・不具合による修繕
テナント負担とされやすいもの
- テナント区画内部の内部配線・配管工事
- テナント専用のメーター増設費用
- 業態に応じた容量増強・設備グレードアップ
- テナント都合による仕様変更工事
ただし、この原則はあくまで慣習的なものであり、法律で明確に規定されているわけではありません。実際には賃貸借契約書の「原状回復義務」や「造作工事の費用負担」に関する条項によって取り決めが変わります。契約締結前に「どこまでがオーナー負担で、どこからがテナント負担か」を書面で確認することが不可欠です。
口頭での確認だけでは後日トラブルになりやすい。工事範囲と費用負担者を契約書または覚書に明記してもらうことを強く推奨します。
引込工事が必要になるケースと費用相場
電気の引込工事
スケルトン(躯体のみ)状態の物件や、以前の入居者が撤去工事で配線を撤去してしまった物件では、電力会社の電柱から建物への引込工事が必要になることがあります。また、前テナントより大きな電気容量が必要な業態(飲食店・美容室・クリニックなど)では、幹線の容量増強工事が発生します。
引込工事の費用は、引込距離や工事内容によって大きく異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 低圧引込(一般的な店舗):10〜30万円程度
- 高圧受電(大型施設・大電力使用):数百万円規模になることも
電力会社(東京電力、関西電力など)に事前相談すると概算見積もりが出ます。費用の一部は電力会社が負担する場合もあり、工事区分(電力会社工事・お客様工事)の確認が必要です。
水道の引込工事
本管(道路下の公共水道管)から敷地内への引込が未整備の物件では、給水管引込工事が必要です。この工事は各自治体の指定工事業者しか施工できないため、まず地元の水道局または自治体窓口で確認します。
費用相場:
- 引込距離が短い場合(道路端から近い):30〜60万円程度
- 道路掘削が大規模になる場合:100万円超になることも
飲食店など水を大量に使う業態では、既存の引込管の口径(20mm・25mm・40mmなど)が業態に対して細すぎるケースもあり、口径変更工事が別途必要になります。
ガスの引込工事
都市ガスの本管が敷地前の道路に通っていない地域では、引込工事自体が困難または非常に高額になります。その場合はプロパンガス(LPG)への切り替えを検討することになります。
都市ガス引込の費用相場:
- 標準的な引込工事:10〜30万円程度
- 本管が遠い場合:数十万〜100万円以上
ガス会社(東京ガス、大阪ガスなど)に事前に引込可否と費用を確認することが先決です。
契約容量の選び方|電気アンペア・ガス種別
電気の契約容量
電気契約は、使用する機器の総容量をもとに選択します。容量が小さすぎるとブレーカーが頻繁に落ち、業務に支障が出ます。逆に大きすぎると基本料金が無駄に高くなります。
業態別の目安
- 一般事務所・小売店(空調・照明のみ):30〜60A
- 美容室・エステ(ドライヤー・スチーマー多用):60〜100A
- カフェ・軽食店(コーヒーマシン・冷蔵庫・フライヤー):60〜100A
- 本格飲食店(厨房機器多数):100A〜200A、または動力(三相200V)契約
動力(三相200V)が必要な機器(大型冷蔵庫・業務用エアコン・スチームコンベクションオーブンなど)を使う場合は、電力会社との動力契約が別途必要です。単相と動力の両方を契約するケースが飲食店では一般的です。
内装業者や厨房機器業者に「使用機器リスト」を作成してもらい、電力会社の担当者と一緒に適切な契約容量を決めるのが確実です。
ガスの種別選択(都市ガス・LPG)
都市ガスとLPG(プロパンガス)は、カロリー・圧力・機器の互換性が異なります。機器購入前に必ず物件のガス種別を確認してください。都市ガス対応の機器をLPG環境で使うことはできません(逆も同様)。
都市ガスのメリット:料金が比較的安定、インフラが整備された地域では安心 LPGのメリット:都市ガスが通っていない地域でも使用可能、停電時でも使える
ガス種別が未確定の段階で厨房機器を発注するのは危険です。必ず物件確認→ガス種別確定→機器発注の順で進めてください。
行政・電力会社への申請手続きの流れ
電気の申請
- 電力会社への事前相談:引込工事の可否・費用・工期の確認。東京電力・関西電力など各エリアの電力会社窓口またはウェブサイトから申し込みます。
- 電気工事士による設計・届出:屋内配線工事は電気工事士の資格が必要。工事業者が電力会社への「工事申込」を代行することが多い。
- 工事施工・完了検査:電力会社の検査員が竣工検査を行い、合格後に電力供給が開始されます。
- 電力供給契約の締結:使用開始前に電力会社と供給契約を結びます。
申請から開通まで、通常2〜4週間。工事内容が大きい場合はさらに時間がかかります。
水道の申請
- 自治体水道局への事前相談:給水申請の窓口で引込の可否・口径・費用を確認します。
- 指定給水装置工事事業者の選定:各自治体が指定する業者のみが給水装置工事を施工できます。自治体のウェブサイトに一覧が掲載されています。
- 給水申請・道路占用許可申請:道路掘削を伴う場合は道路管理者への占用許可が必要。申請は工事業者が代行します。
- 工事施工・完了検査:自治体担当者が検査を行い、合格後に給水が開始されます。
申請から開通まで、通常3〜6週間(道路掘削がある場合はさらに延びることも)。
ガスの申請
- ガス会社への事前相談:引込の可否・費用・工期の確認。都市ガスの場合は各エリアのガス会社(東京ガス・大阪ガスなど)に問い合わせます。
- ガス工事の施工:ガス工事はガス事業法に基づく資格者が施工します。内部配管は指定工事店が担当。
- ガス開栓・安全確認:ガス会社の担当者が立会いのもと開栓し、ガス漏れ検査を実施します。
- ガス供給契約の締結:使用開始前にガス会社と契約を結びます。
申請から開通まで、通常2〜4週間。
まとめ|開業3〜4ヶ月前からインフラ確認を始めよう
インフラ工事は「物件が決まってから動けばいい」と思いがちですが、実際には引込工事・申請・検査のプロセスに想定外の時間がかかることがあります。開業予定日から逆算して、最低でも3〜4ヶ月前には現況調査と申請準備を開始することを推奨します。
内覧時のチェックポイントとして、以下を必ず確認してください。
- 電気:現在の契約容量・動力契約の有無・分電盤の状態
- 水道:引込管の口径・水圧・排水経路の確認
- ガス:都市ガス/LPGの別・ガスメーターの位置と容量
これらを把握したうえで、オーナーとの費用負担交渉・内装業者との工程調整を進めることで、スムーズな開業を実現できます。インフラの準備不足による開業遅延はテナント・オーナー双方に損失をもたらします。早めの行動が最大のリスク回避策です。
