店舗でBGMを流す前に知っておくべき著作権の基本
テナントで飲食店・美容室・小売店などを開業する際、店内の雰囲気を演出するためにBGMを流すことは一般的な開業準備のひとつです。しかし日本では著作権法により、商業目的の場所(店舗等)で音楽を公衆に聞かせる「演奏権」は著作権者に帰属しており、著作権管理団体への届出と使用料の支払いが原則として必要です。
この手続きを知らずに音楽を流していると、後日著作権管理団体から使用料の請求を受けたり、最悪の場合は著作権侵害として法的措置を取られるリスクがあります。開業準備の段階で正しく手続きをしておくことが重要です。
著作権管理団体の役割:JASRACとNexTone
日本で音楽著作権を管理する主な団体は以下の2つです。
JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)
日本最大の音楽著作権管理団体で、国内外の膨大な楽曲の演奏権・放送権等を管理しています。店舗でのBGM使用に関しては「演奏等」の使用区分として届出・使用料支払が必要です。
NexTone(株式会社NexTone)
2014年に設立された比較的新しい著作権管理団体で、一部の国内外アーティスト・レーベルの楽曲を管理しています。管理楽曲数はJASRACより少ないものの、近年登録楽曲数が増加しています。
使用したい楽曲がどちらの団体に登録されているかは、各団体の公式ウェブサイトで検索できます。両団体の管理楽曲を使用する場合は、それぞれへの届出と使用料支払が必要になります。
店舗BGMの著作権使用料の計算方法
JASRACの店舗向け使用料は「店舗の種類・面積・利用形態」によって計算されます。大まかな区分は以下のとおりです。
録音物の再生(CDプレーヤー・スマートフォン・BGMサービスでの再生)
店舗面積と店舗区分によって年間使用料が定められています。例えば飲食店で客席面積100㎡未満の場合、年額6,000円(2024年時点の目安)程度から始まります。面積が大きくなるほど使用料は上がります。
テレビ・ラジオの受信機を店内で使用する場合
テレビを店内で流す場合も著作権の問題が生じます。ただし一般的な家庭用テレビの「受信」は、別途受信料(NHK)の問題はあるものの、テレビ放送自体は放送局がJASRACと包括契約を締結しているため、テレビ受信機を置くだけであれば個別の届出は不要なケースが多いです。詳細は状況により異なるため、JASRACに直接照会することをお勧めします。
生演奏・カラオケの使用
ライブ演奏を店内で行う場合やカラオケ機器を設置する場合は、別の使用区分でより高い使用料が設定されています。カラオケ機器の設置は機器提供会社がJASRACと契約している場合もあります。
届出の手続き:JASRACへの申請フロー
JASRAC への届出手続きは以下の手順で進めます。
- 使用区分の確認:JASRAC公式サイトまたは電話で、自店の業態・利用形態に対応する使用区分を確認する。
- オンラインまたは書面での申請:JASRAC公式ウェブサイトから「利用申請」を行います。法人・個人事業主いずれも申請可能です。店舗名・所在地・床面積・業種・利用形態・使用開始日を記載します。
- 使用料の支払い:申請内容に基づいて計算された年間使用料を支払います。支払は年払い・口座振替などの方法があります。
- 領収書・許諾証の保管:許諾を受けた証明として発行される書類を保管しておくと、万一の問合せ時に対応できます。
届出せずに使用を開始し、後日JASRACの調査員が来店して未払いが発覚した場合、遡及して使用料を請求されるリスクがあります。開業前または開業と同時に手続きを完了しておくことを強くお勧めします。
店舗用BGMサービス vs. 個人向け音楽サブスク
近年、Spotify・Apple Music・Amazon Music等の音楽ストリーミングサービスが普及しています。しかし、これらの個人向けサービスを店舗のBGMとして使用することは、各サービスの利用規約で原則禁止されています(「個人的・非商業的使用に限る」とされているためです)。
個人向けサブスクを店舗で使用し続けることは、著作権法上のリスクに加えて利用規約違反にもなるため、開業時に切り替えることが必要です。
店舗向けBGMサービスの活用
飲食店・美容室・小売店向けに、著作権処理済みの楽曲を提供する「店舗用BGMサービス」が複数あります。これらのサービスは月額数千円〜数万円の料金に著作権使用料が含まれており、個別にJASRACへ届出・支払をする手間が省けます(サービス提供会社が包括契約を締結しているため)。
主な店舗向けBGMサービスとしては、USENの「USEN」(業界最大手)、「モンスターチャンネル」などがあります。業態・店舗の雰囲気に合ったプレイリストを選択でき、著作権管理の手間を大幅に軽減できる点が魅力です。コストはかかりますが、コンプライアンスと運用の手間を考えると店舗向けサービスの利用が現実的な選択肢です。
著作権フリー・クリエイティブコモンズ楽曲の活用
著作権管理団体に登録されていない「著作権フリー音楽」や「クリエイティブコモンズ(CC)ライセンス」の楽曲は、条件によって無料または低コストで店舗BGMに使用できます。YouTubeのオーディオライブラリ・Artlist・Epidemicなどで楽曲を入手し、BGMとして使用するケースも増えています。ただし各楽曲のライセンス条件を必ず確認した上で使用してください。
無許諾使用のリスクと注意点
著作権者(または管理団体)の許諾なしに音楽を使用することは著作権法違反となり、民事上の損害賠償請求の対象になりえます。JASRACは店舗への立入調査を行う権限を持っており、未届けの店舗に対して使用料の支払いを求める活動を継続的に行っています。
摘発されて支払う使用料は遡及分(過去数年分)を含む可能性があり、正規の届出を最初から行っていた場合よりも大きなコスト負担になります。「他の店もやっていないだろう」という認識は危険で、特に一定規模以上の店舗・チェーン店は調査対象になりやすいと言われています。
まとめ:BGM著作権手続きは開業準備の一環として早めに完了を
店舗BGMの著作権手続きは、物件契約・内装工事・各種許認可と並ぶ開業準備の重要な要素のひとつです。手続きを後回しにすると、知らず知らずのうちに義務違反の状態で営業を続けることになります。
実務的な対応方針として、(1) 店舗向けBGMサービス(USEN等)を利用して著作権処理を一括対応する、(2) 著作権フリー楽曲のみを使用する、(3) 自前でJASRAC・NexToneに届出して使用料を支払う、のいずれかを開業前に決定し、開業日から適法な形でBGMを流す準備を整えてください。
テナント物件探しと同時に、開業に必要な法務・手続き面の疑問をまとめておき、仲介業者やオンラインのお問い合わせフォームから相談することで、スムーズな開業準備を進めることができます。
