テナント契約と電子契約——普及の背景
コロナ禍以降、賃貸借契約を電子化する動きが急速に広まりました。従来は書面での締結が義務付けられていた宅地建物取引業法の「重要事項説明書(35条書面)」および「賃貸借契約書(37条書面)」も、2022年の法改正により電磁的方法による交付・締結が認められました。
事業用テナント契約において電子契約を選択するメリットと、注意すべき法的ポイントを整理します。
電子契約の法的根拠
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)
電子署名法に基づく電子署名は、手書き署名・押印と同等の法的効力を持ちます。ただし有効な電子署名は「電子文書が特定の本人によって作成されたこと」と「改ざんされていないこと」を証明できるものである必要があります。
宅建業法改正(2022年5月施行)
- 35条書面(重要事項説明書):電磁的方法による交付が可能に(IT重説)
- 37条書面(契約書):電磁的方法による交付が可能に
- 借主(賃借人)の承諾が必要
電子帳簿保存法
2024年1月から電子取引データの電子保存が義務化されました。電子契約で締結した賃貸借契約書は電子のままで保存・管理する必要があります。
主要電子契約サービスの比較
| サービス | 特徴 | 月額費用(目安) | 宅建業法対応 |
|---|---|---|---|
| クラウドサイン | 国内最大手・弁護士ドットコム運営・国内法準拠 | 10,000円〜 | ○ |
| GMOサイン | 低コスト・認印型と実印型の両対応 | 9,680円〜 | ○ |
| DocuSign | グローバル標準・国際取引に強い | 20,000円〜 | △(国際法準拠) |
| マネーフォワードクラウド契約 | 会計ソフト連携・中小企業向け | 5,980円〜 | ○ |
事業用テナント契約では、国内法(電子署名法)に対応した立会人型電子署名を採用しているサービスが適しています。
立会人型 vs 当事者型
立会人型(クラウドサイン・GMOサイン認印型など):サービス事業者が「この人が署名した」と証明する仕組み。メールアドレス認証が主な本人確認手段。簡便・低コストだが、証明力は「当事者型」より低い。
当事者型(GMOサインの実印型・マイナンバーカード連携):電子証明書を使った本人確認。法的証明力が高く、高額・重要度の高い契約に適している。
事業用テナント契約(保証金が大きい・長期契約など)では、当事者型または立会人型+実印代わりの電子証明書を組み合わせることを推奨します。
実務フロー:電子契約での賃貸借締結手順
Step 1:事前合意(借主・貸主・仲介の三者) 電子契約で締結する旨を全関係者が書面または口頭で承諾します。宅建業法上、借主の承諾は必須です。
Step 2:重要事項説明のIT重説対応 ビデオ会議(Zoom等)またはWeb会議で宅地建物取引士が画面越しに説明します。借主は事前にPDF等で重要事項説明書を受け取り、当日IDを提示できる環境を整えます。
Step 3:電子署名の付与 各サービスのフローに沿い、貸主・借主・連帯保証人(必要な場合)が電子署名を付与します。署名完了と同時にタイムスタンプが付与され、改ざん防止が証明されます。
Step 4:電子文書の保存 電子帳簿保存法に基づき、締結済みの電子契約書を適切な方法(改ざん防止措置付き)で保存します。最低7年間の保存義務があります。
Step 5:連帯保証人がいる場合の対応 連帯保証人(法人保証会社など)も電子署名できるか確認します。個人保証人が高齢でIT操作が難しい場合は書面と電子の混合署名が可能なサービスを選択してください。
テナント側のメリットと注意点
メリット
- 郵送コスト・印紙代の削減:収入印紙(1〜数万円)が不要になるケースがある(電子契約には印紙税非課税の判断が一般的)
- 締結速度の短縮:郵送往復の数日が不要になり即日〜翌日締結も可能
- 書類管理の効率化:クラウド上で契約書を一元管理でき、紛失リスクが減少
注意点
- 承諾の明示が必要:借主として電子契約を承諾する旨を必ず文書で記録しておく
- 本人確認の厳格化:本人確認が不十分な電子署名は後日争いになる可能性がある
- 保存義務の遵守:電子帳簿保存法に違反した場合、青色申告承認の取消し等のリスク
まとめ
事業用テナント契約の電子化は2022年法改正以降、実務上の標準に近づきつつあります。クラウドサインやGMOサインなど国内法対応サービスを選び、借主の承諾を明示したうえで締結・保存することが必要です。収入印紙の節約、スピーディな締結、書類管理の効率化など実務メリットは大きく、今後の入居交渉でも「電子契約希望」と伝える場面が増えるでしょう。
