造作譲渡とは何か——造作買取請求権との違い
造作譲渡とは、テナントが退去する際や事業を第三者に承継する際に、店舗内の内装・設備・什器(造作)を次の借主や第三者に有償で引き渡すことです。
よく混同される造作買取請求権(借地借家法33条)とは別物です。
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| 造作買取請求権 | 貸主(オーナー)に対して造作の買取を請求する権利。特約で排除可能。現在は多くの契約で特約排除済み |
| 造作譲渡 | 次の借主や第三者に有償で造作を売却する行為。貸主の承諾が必要な場合が多い |
実務上は、貸主の承諾を得て次のテナントに造作を引き渡す「居抜き物件」での造作譲渡が一般的です。譲渡価格は当事者間の合意で決まるため、相場感を持って交渉に臨むことが重要です。
造作譲渡の価格相場——業態別の目安
造作譲渡の価格は、内装の状態・築年数・設備の種類・業態によって大きく異なります。以下は業態別の一般的な相場感です。
飲食店(ラーメン・定食・カフェ等)
飲食店は厨房設備(グリストラップ・排気ダクト・フライヤー・冷蔵庫)の評価が価格を大きく左右します。
美容室・エステサロン
| 規模 | 設備の状態 | 譲渡価格の目安 |
|---|---|---|
| 〜10坪(3〜5席) | 3年以内の設備 | 100〜300万円 |
| 10〜20坪(5〜10席) | 5年以内の設備 | 200〜600万円 |
| 設備が古い(10年超) | ほぼ解体費相当 | 0〜50万円 |
美容室は電気工事・シャンプー台・鏡・什器の状態が評価のポイントです。
物販・小売店
物販系は内装の汎用性が高いため、造作価値は飲食・美容より低めです。目安は坪3〜10万円程度。陳列棚・レジカウンターの汎用性次第で価格が決まります。
事務所・クリニック
クリニックは医療機器(CT・X線等)は造作外になることが多く、内装・診察室の仕切り・電気容量増設の工事費が評価対象です。坪5〜15万円が目安。
減価償却年数による残存価値の算出
造作譲渡価格の根拠として、税務上の耐用年数に基づく残存価値計算が参考にされます。
内装・設備の耐用年数(税務上の目安)
| 設備の種類 | 法定耐用年数 |
|---|---|
| 建物附属設備(電気・給排水・内装) | 10〜15年 |
| 業務用厨房機器(冷蔵庫・コンロ等) | 5〜8年 |
| 什器・備品(テーブル・椅子・棚) | 3〜5年 |
| 空調設備 | 13〜15年 |
残存価値の簡易計算式:
残存価値 = 取得原価 × (1 - 経過年数 ÷ 耐用年数)
例:取得原価500万円・耐用年数10年・経過3年の内装 → 500 × (1 - 3/10) = 350万円
ただし、実際の市場価値は使用状態・清掃状態・需要によって上下します。計算上の残存価値はあくまで交渉の出発点として活用してください。
価格交渉の実務——売主・買主それぞれの視点
売主(退去テナント)の交渉ポイント
- 取得原価の証拠を準備する:工事請負契約書・領収書・内装業者の見積書を保管しておくと価格の根拠として説得力が増します
- 解体費用との比較を示す:解体工事費(坪5〜15万円)と比較して「造作譲渡すれば解体費が不要」という論点で買主の意欲を引き出す
- 設備の稼働状況を記録する:実際に動作するかどうかは買主の最大の関心事。動作確認動画や整備記録を準備する
買主(次の入居テナント)の交渉ポイント
- 現地確認で設備の実態を見る:見た目と実態が乖離していることも。電気容量・排水・ダクトの状態を専門業者に確認させる
- 撤去費用を見積もって交渉材料にする:不要な設備の撤去費用を算出し、その分を価格から差し引く交渉をする
- 業態変更に伴うコストを加味する:前テナントと異なる業態の場合、設備の転用コストを考慮して評価する
造作譲渡契約書に盛り込むべき条項
造作譲渡は口頭や覚書だけで済ませると後々トラブルになりやすい取引です。正式な造作譲渡契約書を作成することを強くお勧めします。
必須条項
- 対象造作の特定:物件の特定・対象となる設備・什器・内装の一覧(リスト添付)
- 譲渡価格と支払い条件:金額・支払い時期・支払い方法(一括か分割か)
- 引渡し時期と状態:引渡し日・稼働確認の有無・清掃状態
- 瑕疵担保(契約不適合)の範囲:引渡し後に発覚した不具合の責任の範囲(短期(例:引渡し後30日以内)に限定することが多い)
- 貸主の承諾:貸主の書面による承諾を条件とする旨
- 賃貸借契約との関係:賃貸借契約の引継ぎが造作譲渡の前提かどうか
注意点:貸主の承諾を先に取る
造作譲渡は貸主(オーナー)の承諾なしには実行できない場合がほとんどです。賃貸借契約の無断譲渡・無断転貸に該当するリスクがあります。造作譲渡の交渉と並行して、必ず貸主への事前相談・承諾取得を進めてください。
まとめ:相場を把握し、根拠ある価格で交渉する
造作譲渡の価格は「言い値」になりがちですが、取得原価・耐用年数・設備状態・市場需要を組み合わせて根拠のある価格を設定することが、スムーズな取引の鍵です。業態別の相場感・減価償却ベースの残存価値・解体費用との比較の3軸で価格を組み立て、造作譲渡契約書を正式に取り交わすことで、売主・買主双方のリスクを最小化できます。テナント仲介の専門業者に仲介を依頼することで、価格算定・貸主交渉・契約書作成まで一貫してサポートを受けることができます。
