テナントで設備が故障したら誰が直す?
テナント運営中に空調が壊れた、排水が詰まった、照明が点かなくなったといった設備故障は避けられません。問題になるのは「誰が修繕費用を負担するか」という点です。
2020年4月施行の改正民法により、賃貸借契約における修繕に関するルールが明文化されました。本ガイドでは、テナント経営者が知っておくべき修繕義務の基本と実務対応を解説します。
1. 修繕義務の基本ルール(民法改正後)
貸主(オーナー)の修繕義務
改正民法第606条では、貸主は「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕」を行う義務を負うと規定されています。具体的には、建物・設備の機能を維持するための修繕が対象です。
貸主負担になる修繕の例:
借主(テナント)の修繕義務
借主は「善管注意義務」として、通常の使用に伴う軽微な修繕を行う責任があります。
借主負担になる修繕の例:
- 借主自身が設置した設備(DIY設置のエアコン等)の故障
- 借主の過失・不注意による破損(ガラス割れ・壁の穴等)
- 消耗品の交換(電球・電池・フィルター等)
- 借主設置の内装・造作の修繕
特約による修繕義務の変更
賃貸借契約の特約で「借主負担の修繕範囲」を拡大することは認められています。例えば「エアコンの修繕費用は借主負担」などの特約が有効な場合があります。ただし、特約の内容が消費者契約法や公序良俗に反する場合は無効となりえます。
2. 主要設備別の修繕実務
エアコン(空調設備)
飲食・小売テナントでエアコン故障は営業に直接影響します。
確認事項:
- 契約書の特約条項にエアコン修繕義務の記載があるか
- エアコンが「貸主設備」として提供されているか、「借主設置」かを確認
- 故障原因(経年劣化か借主の過失か)
対応手順:
- 故障発見→速やかに管理会社・貸主へ書面(メール可)で通知
- 修繕業者への見積もり依頼(貸主の了承を得てから着工)
- 費用負担について合意書を取得してから工事実施
費用目安:
- エアコン修繕(ガス補充・部品交換):30,000〜100,000円
- エアコン本体交換(業務用・10〜20畳):200,000〜500,000円
給排水設備(配管・排水詰まり)
飲食テナントで特に多いトラブルが排水詰まりとグリストラップの詰まりです。
費用負担の判断:
- 配管の老朽化・破損:貸主負担
- グリストラップの清掃怠慢による詰まり:借主負担(定期清掃義務)
- 異物投入による詰まり:借主負担(過失)
緊急時対応: 排水が完全に詰まって営業継続が困難な場合、「緊急修繕権」(民法第607条の2)により、借主が自ら修繕業者を手配し、費用を貸主に請求することができます。ただし、緊急性を証明するために連絡記録(メール・電話記録)を保存しておくことが重要です。
電気設備(ブレーカー・配線・照明)
費用負担の判断:
- 建物側の幹線・分電盤の故障:貸主負担
- 借主の設備増設による過負荷:借主負担
- テナント専用の照明(借主設置分)の修繕:借主負担
注意点: 電気工事は電気工事士の資格が必要です。DIYでの対応は禁止されています。必ず有資格業者に依頼してください。
給湯設備
- 貸主設備として提供された給湯器の経年劣化:貸主負担
- 借主が設置した給湯器:借主負担
- 費用目安(業務用給湯器交換):150,000〜400,000円
3. 修繕交渉の実務
連絡・記録の徹底
設備故障発生時は「いつ、何が故障したか」を記録し、管理会社・貸主に書面で通知します。口頭のみの連絡は後々のトラブルの原因になります。
推奨する記録方法:
- メールで連絡(送受信記録が証拠となる)
- 故障状態を写真・動画で記録
- 修繕対応の遅れがある場合は内容証明郵便も選択肢
貸主が修繕を遅延した場合
貸主が合理的期間内に修繕を行わない場合、借主には以下の権利があります:
- 賃料減額請求(民法第611条):設備故障により使用収益が一部できない期間、その割合に応じた賃料減額を請求できる
- 自己修繕後の費用請求:緊急性がある場合、借主が修繕を行い費用を貸主に請求できる(民法第607条の2)
- 契約解除:修繕義務の重大な違反がある場合(実務では最終手段)
交渉のポイント
- 修繕費用が高額な場合(50万円超)は複数業者から相見積もりを取る
- 費用分担についてはメールで合意内容を残す
- 管理会社経由と貸主直接交渉を使い分ける
4. 修繕費用の節約術
年次点検の実施
設備の故障を予防するため、年1〜2回の設備点検を実施することが長期的なコスト削減につながります。特にエアコンのフィルター清掃は借主が月次で実施することで、本体故障リスクを下げられます。
保険の活用
「借家人賠償責任保険」は、借主の過失による設備損害や建物への損害をカバーします。開業時に加入しておくことで、高額な修繕費用の突発的な発生リスクを抑えられます。一般的なテナント向けの保険料は月額3,000〜10,000円程度です。
修繕履歴の管理
修繕の記録(修繕内容・費用・業者・日付)を台帳として管理しておくことで、退去時の原状回復交渉の際に「借主の過失ではない修繕」を証明しやすくなります。
テナント賃貸中の設備故障は、費用負担の考え方を事前に理解しておくことでトラブルを大幅に減らせます。契約書の特約内容を入居前に確認し、故障発生時は速やかに記録と通知を行うことが、借主として自分の権利を守る最善の方法です。
