テナント開業で見落とされる電気設備の問題
テナント物件の内覧では、立地・広さ・賃料に目が向きがちです。しかし、電気容量・動力設備の確認を怠ると、開業前に数十〜数百万円の追加工事費用が発生するリスクがあります。
「契約してから電気容量が足りないことが判明した」「動力(三相200V)が引き込まれていないため、厨房機器が使えない」といったケースは、テナント仲介の現場では決して珍しくありません。本記事では、業態別の電気設備要件と、確認方法・工事費用の目安を解説します。
電気の基本:単相と三相の違い
電気設備の理解に欠かせない基礎知識として、「単相」と「三相」の違いを把握しておきましょう。
単相100V・200V(電灯電源)は、一般家庭や事務所・小売店で使われる標準的な電源です。照明、PC、エアコン(家庭用・小型業務用)、調理器具(小容量)などに使用します。
三相200V(動力電源)は、大型業務用設備の駆動に使われる電源です。大型業務用エアコン、厨房の大型調理機器(ガスではなく電気式の場合)、エレベーター、大型空気圧縮機などが三相200V機器の代表例です。動力電源は単相電源とは別系統で、専用の引き込み工事・幹線工事が必要です。
業態別の電気容量目安
飲食店(標準的な30〜50坪規模)
飲食店では調理機器・換気設備・空調設備の電力消費が大きく、単相だけでは不足するケースがほとんどです。
- 単相200V: 60〜100A(電灯盤)
- 三相200V: 30〜60kVA(動力盤)が目安
ガスを主体とした厨房の場合は電力依存が下がりますが、電気式コンビオーブン・スチームコンベクションを使用する場合は三相200Vが必須です。
美容室・ネイルサロン
美容室は複数のシャンプー台(電動リクライニング・給湯)や乾燥機器を同時使用するため、電力需要が高めです。
- 単相200V: 40〜80A
- 三相200V: 美容室では通常不要(エアコンが家庭用パッケージ型の場合)
ただし、大型のブロー機・スチーム機器を多数設置する場合や、業務用大型空調を使う場合は三相200Vが必要になる場合があります。
フィットネスジム・スポーツ施設
業務用大型空調設備・シャワー室の給湯設備が電力を大量消費します。
- 単相200V: 60〜120A
- 三相200V: 大型パッケージエアコンを使用する場合は必須(1台あたり20〜50kVA程度)
工場・製造業テナント
業種により差が大きいですが、製造機械・加工機器が三相200V〜400Vを要求するケースが多く、電力容量は100kVA以上が必要なこともあります。工場物件では電力設備の確認が最重要事項のひとつです。
物件内覧時に確認すべきポイント
1. 既設の引き込み電力量
物件に引き込まれている電力量(kVA)を確認します。建物全体の引き込み容量と、テナント区画に割り当てられる容量は異なります。管理会社・オーナーに書面で確認しましょう。
2. 電灯盤・動力盤の有無
テナント区画内の分電盤を確認し、単相(電灯盤)と三相(動力盤)の両方が設置されているかチェックします。動力盤がない場合、三相機器を使うためには幹線工事が必要です。
3. 幹線の容量と増設余地
建物の幹線(共用の電力幹線)に増設余地があるかどうかを、ビルの設備管理者に確認します。幹線が満量の場合、増設工事が不可能または非常に高額になります。
4. テナント専有部の盤仕様
テナント区画のブレーカー・分電盤の定格容量を確認します。既設の設備で不足する場合、分電盤の交換・増設が必要です。これはB工事(ビルオーナー指定業者)になる場合があります。
電気工事費用の目安
電気容量の増設・動力引き込みには、建物の規模や既設設備の状況により費用が大きく変わります。
- テナント区画の分電盤交換(容量アップ): 20〜50万円
- 動力幹線の引き込み(建物に動力がない場合の電力会社工事): 50〜200万円
- テナント区画への動力盤新設(幹線から分岐): 30〜100万円
- 大規模な幹線工事(建物全体の幹線容量増強): 200万円以上
これらの工事はB工事(オーナー指定業者)になるケースが多く、費用はテナント負担になる場合があります。工事費用を誰が負担するかを契約前に明確にしておくことが重要です。
専門家への相談を躊躇しない
電気設備の確認は専門的な知識が必要で、見た目だけでは判断できません。開業前に電気工事士・設備設計士への相談、または現況の電気設備図面の入手を強くおすすめします。
テナント仲介専門家に依頼する場合は、「電気設備の確認や業者紹介まで対応できるか」を選定基準にすると、開業後のトラブルを未然に防げます。
