テナント開業に必要な許可・届出は業種で異なる
テナント物件を契約してすぐに営業できるわけではありません。業種によっては保健所・警察署・都道府県庁などへの許可申請や届出が必要で、審査に数週間から2ヶ月以上かかるケースもあります。「契約後に許可が下りず開業が遅れた」「設備不足で再工事が必要になった」といったトラブルを防ぐため、物件探しの段階から必要な許可要件を把握しておくことが重要です。
本記事では、飲食・美容・医療・物販の各業種で必要となる主な許可・届出と、申請時の注意点を実務目線で解説します。
飲食業|保健所の営業許可が最優先
飲食店営業許可
飲食業の開業には、保健所への飲食店営業許可の申請が必須です。2021年6月の食品衛生法改正により、許可業種が再編され、従来の「飲食店営業」「喫茶店営業」は「飲食店営業」に一本化されました。レストラン・カフェ・居酒屋・弁当販売店など、調理・提供形態を問わず同一の許可で営業できます。
主な施設基準
- 調理場と客席の区画(壁・カウンター等で明確に分離)
- 2槽シンク(洗浄用・すすぎ用)の設置
- 手洗い設備(調理場内に専用設置、温水・石けん・ペーパータオル)
- 冷蔵・冷凍設備(温度計付き)
- 給湯設備
- 換気設備(フード・ダクト)
- 清掃しやすい床・壁材(耐水性)
居抜き物件でも前借主と業態が異なる場合、設備が基準を満たさないことがあります。契約前に保健所で図面の事前相談を行い、改修箇所を確認しておくと安全です。
深夜酒類提供飲食店営業届出
バー・スナック・居酒屋など、深夜0時以降に酒類を提供する場合は、警察署への深夜酒類提供飲食店営業届出が必要です(食事メインで深夜営業しない飲食店は不要)。
- 届出受理まで約10日間
- 住居系用途地域(第一種・第二種住居地域など)では営業不可のエリアあり
- 客席面積・照度・騒音基準あり
- 風俗営業許可とは異なり、接待行為は禁止
物件の用途地域は、自治体の都市計画マップや不動産会社の重要事項説明で確認できます。
食品衛生責任者の配置
すべての飲食店に食品衛生責任者の配置が義務付けられています。調理師・栄養士免許保持者は資格不要ですが、それ以外は各都道府県の食品衛生協会が実施する講習(1日・約1万円)を受講する必要があります。開業前に受講を済ませておきましょう。
美容業|保健所の開設届と美容師免許
美容所開設届
美容室・理容室・ネイルサロン・まつげエクステサロンなど、美容業を営む場合は保健所への美容所開設届(理容の場合は理容所開設届)が必要です。
主な施設基準
- 作業室面積:1作業椅子あたり13㎡以上(待合を除く)
- 洗髪設備(シャンプー台)
- 換気・採光設備(換気扇、窓など)
- 消毒設備(消毒器、消毒液保管容器)
- 床・壁の材質(清掃しやすい不浸透性素材)
ネイル専門サロンやアイラッシュサロンでは、洗髪設備の代わりに手指消毒設備で代替可能な自治体もあります。自治体によって基準が異なるため、必ず管轄保健所で確認してください。
美容師免許と管理美容師
施術者全員に美容師免許(または理容師免許)が必要です(ネイル・アイラッシュは都道府県により異なる)。また、常時2名以上の美容師が働く店舗では、管理美容師の配置が義務付けられています。管理美容師は、美容師免許取得後3年以上の実務経験を持ち、所定の講習を修了した者が就任できます。
開業者自身が美容師免許を持たない場合でも、免許保持者を雇用すれば開業可能です。
医療・薬局|都道府県の許可と有資格者配置
診療所開設届・薬局開設許可
医療機関(クリニック・歯科医院)を開設する場合は、都道府県(保健所設置市では市)への診療所開設届が必要です。医師・歯科医師免許保持者が管理者となり、開設後10日以内に届出を行います。
薬局開業には薬局開設許可が必要で、薬剤師が管理者として常駐することが義務付けられています。許可申請には店舗図面・設備リスト・従業員名簿・医薬品取扱品目などの提出が求められ、審査に1〜2ヶ月かかります。
医療テナントの物件探しのポイント
- 電気容量(医療機器使用に耐えうる設備)
- 給排水能力(診療科目により大量の水を使用)
- 排水処理(医療廃水の処理基準)
- バリアフリー対応(車椅子対応トイレ、スロープ)
- 駐車場(クリニックでは駐車スペース確保が集客に影響)
居抜き物件であっても、前借主の診療科目と異なる場合は設備改修が必要なケースが多いため、物件契約前に専門業者による現地調査を推奨します。
麻薬・医療ガス等の取扱許可
麻酔科・ペインクリニックなど麻薬を取り扱う場合は麻薬小売業者免許、在宅医療で酸素ボンベ等を扱う場合は高圧ガス販売事業届など、追加の許可・届出が必要です。
物販・その他業種|古物商・酒類販売など
古物商許可(リサイクルショップ・中古品販売)
中古品の買取・販売を行う場合は、警察署への古物商許可申請が必要です。古着・古本・中古家電・中古車・美術品など、13品目が対象となります。
- 申請手数料:19,000円
- 審査期間:約40日
- 営業所ごとに許可が必要(複数店舗展開の場合は各店で申請)
- 管理者の配置義務あり(本人または従業員)
フリマアプリでの個人出品は対象外ですが、継続的に仕入れて販売する場合は許可が必要です。
酒類販売業免許
コンビニ・酒販店・スーパーなどで酒類を販売する場合は、税務署への酒類販売業免許申請が必要です。一般酒類小売業免許の取得には、以下の要件があります。
- 申請者が酒類業経験者または経営知識を有すること
- 経営基盤が安定していること(資金要件)
- 販売場が酒類販売に適した場所であること
- 審査期間:約2〜3ヶ月
居酒屋など飲食店での提供は免許不要ですが、店頭で酒類を小売する場合は必要です。
ペットショップ・トリミングサロン|第一種動物取扱業登録
犬猫等の販売・保管・貸出し・訓練・展示を業として行う場合は、都道府県への第一種動物取扱業登録が必要です。動物取扱責任者(所定の実務経験または資格保持者)の配置が義務付けられています。
トリミング専門サロンは「保管業」に該当し、登録が必要です。
開業準備のスケジュール管理と注意点
許可取得の逆算スケジュール
営業許可の審査期間は業種・自治体により異なります。以下は一般的な目安です。
| 業種 | 申請先 | 標準審査期間 |
|---|---|---|
| 飲食店営業 | 保健所 | 2〜3週間 |
| 深夜酒類提供 | 警察署 | 10日程度 |
| 美容所開設 | 保健所 | 2〜3週間 |
| 薬局開設 | 都道府県 | 1〜2ヶ月 |
| 古物商 | 警察署 | 40日程度 |
| 酒類販売 | 税務署 | 2〜3ヶ月 |
内装工事完了後でなければ申請できない許可が多いため、物件契約→工事着工→工事完了→許可申請→審査→許可取得→開業という流れを逆算し、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。
よくあるトラブルと対策
1. 用途地域の制限で営業不可 住居系地域では深夜営業・風俗営業が制限されます。契約前に用途地域と営業形態の適合を確認してください。
2. 設備不足で再工事 居抜き物件でも前業種と異なる場合、シンク・換気・区画などが基準を満たさないことがあります。工事前に保健所・消防署で図面の事前相談を行いましょう。
3. 消防法の適合 収容人員30名以上の飲食店は消防設備(誘導灯・非常照明・消火器など)の設置義務があります。消防署への届出も忘れずに。
4. 開業届・税務署手続き 営業許可とは別に、税務署への個人事業の開業届(開業後1ヶ月以内)、青色申告承認申請、従業員を雇う場合は給与支払事務所の開設届などが必要です。
専門家の活用
行政書士に許可申請を依頼すれば、書類作成・提出代行・事前相談対応を任せられます。報酬は業種により異なりますが、飲食店営業で5〜10万円、古物商で3〜5万円程度が相場です。初めての開業で手続きに不安がある場合は、専門家のサポートを検討すると安心です。
テナント開業の成否は、物件選定と許可取得の段階で大きく左右されます。業種ごとの許可要件を正しく理解し、計画的に準備を進めることで、スムーズな開業を実現しましょう。2026年現在も食品衛生法・美容師法等の基本的な許可体系に大きな変更はありませんが、デジタル手続きの整備が進み一部自治体ではオンライン申請が可能になっています。申請前に管轄窓口の最新情報を必ず確認してください。
