「テナント」は店舗や事務所を探していると何度も目にする言葉ですが、「借主」や「入居者」とどう違うのか、反対の立場は何と呼ぶのかをあらためて聞かれると、迷う方も多いのではないでしょうか。この記事では、国語辞典の定義と法律の用語をもとに、テナントの意味と対義語、似た言葉との使い分けを整理します。
テナントの意味——辞書の定義
小学館『デジタル大辞泉』は「テナント(tenant)」を次の 3 つの意味で説明しています(コトバンク「テナント」)。
同じ頁に載っている『精選版 日本国語大辞典』も、「名店街、雑居ビルなどの出店者。ビルなどの一区画の借り主」と説明しています。もとは英語の tenant で、英語の辞書では「土地や建物を使うために賃料を払う人」とされています(Cambridge Dictionary「tenant」)。
つまり日本語の「テナント」には、区画を借りている人(借り主)を指す使い方と、借りる対象の区画や物件そのもの(貸店舗)を指す使い方の 2 つがあります。たとえば「テナントが撤退した」は借りていた事業者を、「テナント物件を探す」は貸店舗のほうを指しています。どちらの意味かは文脈で読み分けます。
テナントの対義語は「貸主」——オーナー・家主との関係
辞書の「テナント」の項には対義語は書かれていません。ただ、『デジタル大辞泉』の「借主(借り主)」の項は類語に「テナント」を挙げ、反対語として「⇔貸し主」を示しています(コトバンク「借主」・コトバンク「貸主」)。テナントを「借り主」と言い換えると、反対の立場は「貸主(貸し主)」になります。英語でも、tenant に対して、建物や土地を所有して使う人から使用料を受け取る側を landlord と呼びます(Cambridge Dictionary「landlord」)。
実務では、貸主の側を次のような言葉でも呼びます。
- オーナー: 『デジタル大辞泉』の 2 つ目の意味は「自分の所有物を人に委託・賃貸する場合の、その物の所有者」です(コトバンク「オーナー」)。「ビルオーナー」はこの意味です
- 家主・大家: 貸家・貸間の持ち主を指す言葉です(コトバンク「家主」)。住宅の賃貸でよく耳にします
- 賃貸人: 法律や契約書での呼び方です(次の節で説明します)
ただし、所有者(オーナー)と、テナントが契約する貸主が同じ人とは限りません。サブリース(転貸)の物件では、テナントの契約相手は建物の所有者から借りている会社で、テナントは「転借人」という立場になります。契約の相手が誰かは、契約書の当事者欄で確かめてください。転借人の立場はサブリース物件でのテナント出店リスクと対策で解説しています。
法律の上では「賃借人」と「賃貸人」
民法は賃貸借を、当事者の一方が物を使わせることを約束し、相手方がその賃料を支払い、契約が終わったら物を返すことを約束する契約として定めています(民法 第601条(e-Gov法令検索))。使わせる側が「賃貸人」、使って賃料を払う側が「賃借人」です。
店舗や事務所を借りる契約に適用される借地借家法も、「建物の賃貸人」「建物の賃借人」という言葉で更新や解約申入れのルールを定めていて、「テナント」という語は条文に出てきません(借地借家法(e-Gov法令検索))。
契約書に「賃借人」「借主」「乙」と書かれていても、テナントと同じ立場を指していると読めば足ります。自分の権利や義務を調べるときは、「テナント」ではなく「賃借人」の語で条文や解説を探すと見つけやすくなります。
借主・入居者・テナント料との使い分け
似た言葉を並べると、次のように整理できます。
| 言葉 | 意味 | 主に使われる場面 |
|---|---|---|
| テナント | ビルなどの一区画の借り主、または貸店舗 | 店舗・事務所・商業施設 |
| 借主(借り主) | 物品や金銭を借りるほうの人 | 賃貸借全般、お金の貸し借り |
| 賃借人 | 賃貸借の当事者である借り主 | 法律・契約書 |
| 入居者 | 借りた建物に入って住む人を指すときによく使われる言い方 | アパートやマンションなど住宅の賃貸 |
| テナント料 | テナントが払う賃料をさす言い方 | 物件広告・日常の会話 |
「テナント料」は辞書の見出し語ではなく、テナントが払う賃料をさす言い方です。民法では「賃料」という語が使われています。物件によっては賃料とは別に共益費(管理費)がかかるため、毎月の支払額は「賃料+共益費」で比べると確実です。共益費の中身は共益費(管理費)の妥当性判断と交渉方法を参考にしてください。
「テナント」が付くよく見る言葉
- テナント募集: 空いている区画の借り主を募集していること
- テナント物件・テナントビル: 店舗や事務所として貸し出される物件や建物
- 核テナント(アンカーテナント): 商業施設の集客の中心になる大型の借り主。役割や近くに出店するときの考え方はアンカーテナント(核テナント)とはで解説しています
- マルチテナント: IT の分野で、ひとつのシステムを複数の利用者で共有する方式(辞書の 3 つ目の意味)
これからテナントを借りる方へ
テナントは「借り主」の立場を表す言葉で、その相手方は貸主(賃貸人)です。初めて店舗や事務所を借りるときは、契約の当事者、賃料と共益費、契約期間といった項目を、契約書の言葉で確かめることが大切です。物件探しから契約までの流れや、内見・契約前のチェックリストは初めてテナントを借りる方へにまとめています。
