テナント・店舗ビジネスは、アルバイト・パート・契約社員など多様な雇用形態のスタッフが現場で働き、店長やエリアマネージャーとの上下関係も生まれやすい業態です。職場におけるパワーハラスメント防止のための措置は、いわゆる「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法の改正)によって企業規模を問わず事業主の義務として定められており、テナント経営者・店舗運営者も例外ではありません。この記事では、実務として押さえておきたいポイントを整理します。
パワハラ防止法が求める基本的な措置
法律が事業主に求める措置は、大きく4つの柱で整理できます。
- 方針の明確化と周知・啓発 — 就業規則やハラスメント防止規程にパワハラを許さない方針を明記し、朝礼・研修・掲示物などを通じて全スタッフに伝える
- 相談体制の整備 — 相談窓口(担当者・連絡先)を設け、全員が知っている状態にする
- 事後の迅速・適切な対応 — 相談があった際に事実関係を確認し、行為者への指導・配置転換・被害者へのケアなど必要な措置を講じる
- プライバシー保護と不利益取扱いの禁止 — 相談者・行為者の情報を適切に管理し、相談したことで不利益を受けないことを保証する
これらはどれか一つを整備すれば足りるものではなく、セットで機能させることが重要です。特に「相談窓口を設けた」だけで運用の実態が伴っていない場合、問題が起きてから会社側の責任が問われるリスクが高まります。
テナント店舗特有のハラスメントリスク
テナント店舗という業態には、ハラスメントが発生しやすい固有の構造的リスクがあります。
まず、本部の目が届きにくい点が挙げられます。店長個人の裁量が大きくなりがちで、閉店後の狭いバックヤードでの叱責、シフトや評価権限を背景にした圧力、業務時間外のSNS・チャットツールでの連絡強要など、現場独特のパワハラの温床が生まれやすい傾向があります。
次に、非正規スタッフの割合が高い点も特徴です。雇用形態の違いによって発言しにくい心理的障壁が生じやすく、問題を我慢したまま離職してしまうケースも少なくありません。
こうしたリスクに対応するためには、各店舗任せにするのではなく、定期的な従業員アンケートの実施や、本部担当者による店舗巡回・スタッフへのヒアリングを仕組みとして組み込むことが効果的です。多店舗展開している場合は、本部が相談窓口を一元化しておくと、店長自身が加害者・被害者になるケースにも対応しやすくなります。
相談窓口の設置と運用の実務
小規模なテナント経営者にとって、専任の相談担当者を置くことは負担が大きい場合もあります。規模に応じた現実的な体制として、以下のような選択肢があります。
- 社労士事務所や外部相談窓口サービスとの契約(費用は比較的抑えられるケースが多い)
- 複数店舗の店長間での相互チェック体制
- 経営者本人が直接の連絡先となる(小規模・単店舗の場合)
- 厚生労働省が設置する「総合労働相談コーナー」など公的機関の案内を店内に掲示する
重要なのは、「窓口がある」ことを全スタッフが知っており、相談しても不利益を受けないと心から信頼できる運用になっているかどうかです。窓口の存在を求人票や入社時の説明で伝えるだけでなく、定期的に改めて周知することも必要です。
実際に相談を受けた際の対応手順もあらかじめ決めておくことをおすすめします。相談内容の秘密保持の範囲、事実確認のヒアリングを誰がどのように行うか、行為者・被害者双方への配慮をどう担保するか、といった点を文書化しておくと、問題発生時に迷わず動けます。
カスタマーハラスメントとの関係と一体的な対応
テナント店舗では、顧客からの著しい迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメントへの対応も近年重要性が高まっています。パワハラ防止法が主に対象とするのは組織内の力関係を背景にしたハラスメントですが、従業員を守るという経営姿勢は共通です。
実務上の対応として、社内向けの相談窓口をカスタマーハラスメントの相談先としても機能させる企業が増えています。就業規則やスタッフ向けマニュアルを整備する際は、上司・同僚からのパワハラと顧客からのハラスメントの両方に触れておくと、現場スタッフにとって分かりやすい体制になります。また、悪質な顧客対応には組織として対応する(個人に任せない)ことを明示することで、スタッフが一人で抱え込まずに相談できる雰囲気が生まれます。
研修と継続的な周知の仕組み化
ハラスメント対策は、就業規則を整備して終わりではありません。継続的に周知する仕組みが伴って初めて実効性を持ちます。代表的な運用として、以下のような取り組みがあります。
- 新人研修にハラスメント防止の項目を組み込む
- 店長・エリアマネージャーなど管理職向けに定期的な研修機会を設ける
- 年に一度、全スタッフ向けに方針を再周知する(朝礼・回覧・メッセージアプリ等)
- 動画教材やeラーニングを活用して、多店舗間の研修水準のばらつきを抑える
中小規模の事業者であれば、加盟している業界団体や商工会議所が提供する研修プログラム、社労士による出張研修なども現実的な選択肢です。研修の実施記録を残しておくことは、万一トラブルが発生した際に、会社として適切な措置を講じていたことを示す客観的な材料にもなります。
物件選びと職場環境づくりの視点
ハラスメントのない職場づくりは、単なる法令遵守にとどまらず、離職率の低下や採用力の向上にもつながります。人手不足が続く小売・飲食業界では、働きやすい職場という評判そのものが競争力になります。
新規出店にあたっては、スタッフが安心して働ける物理的環境が整えられる物件かどうかも内見時のチェックポイントです。狭いバックヤードで着替えや休憩をせざるを得ない環境は、プライバシーが確保しにくく、密室的な叱責やハラスメントが起きやすい土壌になりかねません。確認したいポイントとしては、休憩スペースが売場・事務スペースから独立しているか、更衣室・トイレの性別別確保が可能か、事務作業スペースが現場から分かれており管理職・スタッフ間の関係性を適度に保てるか、といった点が挙げられます。これらは防犯上の観点だけでなく、労務管理上の観点からも物件選定の判断材料になります。
具体的な就業規則の文言や相談体制の設計に迷う場合は、社会保険労務士など専門家に相談しながら整備することをおすすめします。出店先の物件探しと並行して職場づくりの準備を進めたい方は、千客テナントの掲載物件からご希望の条件に合う店舗・テナントを探してみてください。
