フリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス新法)は、個人事業主に業務を委託する事業者に対して契約条件の明示・報酬支払の適正化・不利益取扱いの禁止・ハラスメント防止体制の整備を義務付ける法律です。テナント店舗を運営している方は、内装デザイナー・カメラマン・SNS運用担当・Web制作者・配達スタッフなど、さまざまな場面でフリーランスへ業務を委託する「発注事業者」の立場になります。規模の大小にかかわらず基本的な義務が適用されるため、「個人への発注だから口約束で構わない」という運用は早めに見直す必要があります。
フリーランス新法が発注事業者に求めること
フリーランス新法が発注事業者に課す主な義務は、大きく次の四つに整理できます。
- 書面等による取引条件の明示:業務の内容・報酬の額・支払期日・成果物の納品方法などを、書面またはメール・チャットなど記録に残る電磁的方法で明示すること。
- 報酬の支払期日の遵守:給付を受領した日から起算して定められた期間内に報酬を支払うこと。支払期日を設けるだけでなく、その期日を実際に守ることが求められます。
- 不利益取扱いの禁止:正当な理由のない受領拒否・報酬の減額・返品・発注の取消しなど、フリーランスに不利益を与える行為を行わないこと。
- ハラスメント防止のための体制整備:業務委託先であるフリーランスからのハラスメント相談を受け付けられる窓口や対応手順を整備すること。
これらは、従業員に対する労働関係法令上の義務とは別に課されるものです。雇用契約ではなく業務委託契約であっても、取引相手がフリーランスであれば適用対象になる点を押さえておいてください。
テナント店舗でフリーランス発注が生じる場面
テナント・店舗ビジネスは、業種を問わずフリーランスへの発注機会が多い業態です。典型的な場面を挙げると、以下のようなケースがあります。
- 新規出店時の内装デザイン・施工管理
- 店舗や商品・メニューの写真・動画撮影
- SNSアカウントの運用代行や広告クリエイティブの制作
- チラシ・POP・ロゴ・パッケージなどのグラフィックデザイン
- Webサイトやランディングページの制作・更新
- フードデリバリーの配達委託
- 経理・帳簿整理などのバックオフィス業務
いずれも、継続的に依頼する場合と単発で依頼する場合の両方があります。継続か単発かによって、求められる契約実務の組み方も少し異なります。
契約書・発注書の整備方法
日々の発注業務の中で毎回ゼロから契約書を作るのは現実的ではありません。実務上は、業務委託契約の雛形を一つ整備しておき、案件ごとに必須項目を埋めて使い回す形が扱いやすい方法です。
契約書や発注書に明記しておくべき主な項目は次のとおりです。
- 委託する業務の内容と範囲
- 報酬の金額(税込み・税抜きの区別を含む)と支払期日
- 成果物の納品方法と検収の基準・期間
- 著作権など成果物の権利帰属
- 秘密保持・個人情報の取扱い
- 契約の有効期間と中途解除の条件
継続的に発注する場合は、共通のルールを定めた基本契約書と、個別の業務内容・報酬・納期を記した発注書(個別契約)の二段構えにしておくと管理しやすくなります。単発の発注でも、上記の項目を網羅した発注書を都度取り交わす習慣をつけておけば、「言った言わない」のトラブルを未然に防げます。
支払期日の設定と経理サイクルの調整
報酬の支払期日は、給付を受領した日から起算して法定の期間内に設定し、かつその期日を実際に守ることが求められます。月末締め翌月末払いなど一般的な経理サイクルを採用している場合でも、受領日から支払日までの期間が法定の範囲を超えていないかを確認しておく必要があります。
支払が遅れがちになる原因の一つは、検収の完了や請求書の受理が経理処理のフローと連動していないことです。成果物を受け取った時点で速やかに検収確認を行い、経理への連絡・支払処理のタイミングを明確にしておくと、法令上の支払期日を守りやすくなります。特に複数店舗を展開する場合、店舗側と本部の経理側で情報共有が遅れると支払遅延につながりやすいため、発注から支払完了までのフローを一度整理しておくことをおすすめします。
取引実態の棚卸しから始める実務ステップ
法令対応を進める際の第一歩として、まず自社が現在どのフリーランスにどのような業務を委託しているかを棚卸しすることが有効です。以下の順で整理していくと取り組みやすくなります。
- 現在継続的に発注しているフリーランスをリストアップする
- 各取引について「書面による契約が存在するか」「支払期日が明示されているか」を確認する
- 口頭・メールのみで済ませている取引を洗い出し、契約書または発注書の整備を優先する
- 支払サイクルが法定期間の要件を満たしているかを確認し、必要であれば経理サイクルを調整する
- ハラスメント相談の受付窓口や対応手順を整備し、フリーランス側に周知する
すべてを一度に対応しようとせず、優先順位をつけて段階的に整備していくと無理なく進められます。契約書のテンプレート作成や自社の取引実態が法律の要件を満たしているかの確認については、弁護士や中小企業向けの相談機関を活用することも選択肢の一つです。
まとめ
フリーランス新法は、テナント店舗が個人事業主に業務を委託するすべての場面に関わる法律です。内装業者・デザイナー・SNS運用担当など、フリーランスへの発注が日常的に発生する店舗ビジネスにとっては、契約書・発注書の整備と支払期日の管理が法令対応の中心になります。取引実態の棚卸しを出発点に、雛形の整備・経理フローの見直し・相談窓口の設置といった実務を一つずつ進めていくことが、継続的なフリーランスとの協力関係を築くうえでも重要です。詳細な適用要件や個別の契約条項については、弁護士などの専門家への確認をおすすめします。新規出店に伴う内装業者やデザイナーとの取引を含め、出店先の物件探しは千客テナントの掲載物件からご検討ください。
