食品表示法を知らずに出店すると何が起きるか
食品を販売するテナントにとって、食品表示法は「知っていて当たり前」の法律です。ところが実際には、「惣菜に手作りラベルを貼っているだけ」「アレルゲン表示が漏れている」など、要件を満たしていないケースが少なくありません。
違反が発覚すると、行政指導や改善の指示にとどまらず、命令に従わないなどの悪質なケースでは刑事罰(拘禁刑・罰金)の対象になります。出店前に食品表示法の基礎を押さえておくことは、テナント経営者にとって必須のリスク管理です。
食品表示法の対象と基本構造
食品表示法は2015年に施行された法律で、それまで食品衛生法・JAS法・健康増進法に分散していた食品表示のルールを一本化したものです。
対象となる食品と表示義務
表示義務は、食品の種類(加工食品・生鮮食品・添加物)と、販売形態(容器包装の有無)によって異なります。
| 対象 | 主な表示事項 |
|---|---|
| 容器包装に入れた加工食品 | 名称・原材料名・添加物・内容量・賞味/消費期限・保存方法・製造者等・アレルゲン |
| 容器包装に入れた生鮮食品 | 名称・原産地 |
| 店内で製造し、その場で包装して販売する惣菜・弁当 | 容器包装に入れて販売するため、表示が必要(アレルゲンを含む) |
| 容器包装に入れず、量り売り・対面で販売する惣菜 | 食品表示基準上の表示義務は原則なし(アレルゲンの情報提供は自主的に行うのが望ましい) |
飲食店の店内飲食や、容器包装のない量り売りは、食品表示基準による表示義務の対象外です。ただし、容器包装に入れて販売する場合は、アレルゲン表示が必要です。店内製造の惣菜でも、パック詰めして陳列するなら、ラベルで表示します。細かな運用は保健所や自治体ごとに異なるため、出店前に確認してください。
アレルゲン表示の実務
特定原材料9品目と特定原材料に準ずるもの
食品表示法では、食物アレルギーを起こしやすい食品を「特定原材料」として、表示を義務付けています(2026年現在)。
表示義務あり(9品目):えび・カシューナッツ・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生(ピーナッツ)
表示を推奨する品目(特定原材料に準ずるもの):アーモンド・あわび・いか・いくら・オレンジ・キウイフルーツ・牛肉・ごま・さけ・さば・大豆・鶏肉・バナナ・ピスタチオ・豚肉・マカダミアナッツ・もも・やまいも・りんご・ゼラチン(20品目)
※くるみは2023年に、カシューナッツは2026年4月に推奨から義務へ移りました(カシューナッツは2年間の経過措置あり)。同じ2026年4月に、ピスタチオが推奨の品目に加わっています。品目は近年の改正で見直されているため、最新の一覧は消費者庁の公表資料で確認してください。
飲食テナントでの表示方法
容器包装に入れて販売する惣菜・弁当は、パッケージへの印字やラベル貼付でアレルゲンを表示します。表示義務のない店内飲食や量り売りでも、メニューへの掲載・卓上POP・口頭での説明など、お客様が確認できる形で情報提供をしておくと、トラブルを防げます。
実務で重要なのは、コンタミネーション(交差汚染)のリスク管理です。同じ厨房で複数のアレルゲンを扱うと、意図せず混入する可能性があります。「○○を使った製品と同じ設備で製造しています」などの注意書きを検討してください。
賞味期限・消費期限の設定
2つの期限の違い
- 消費期限:期限を過ぎたら食べないほうがよい食品(弁当・生菓子・惣菜など)
- 賞味期限:期限を過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではないが、品質が保たれる期限(スナック・缶詰など)
手作りの惣菜・弁当を販売するテナントでは、保存温度の条件とあわせて消費期限を表示します。設定は、食品衛生の専門家や保健所に相談しながら進めましょう。
客観的な根拠を持つ
期限の設定には、客観的な根拠が必要です。保存試験や微生物試験などの科学的な根拠に基づいて期限を決め、その記録を保管しておきます。
検査・指導への備え
保健所などの立ち入り検査
食品を扱うテナントには、保健所による立ち入り検査があります。食品表示が適正かどうかも確認の対象になるため、常に法令の要件を満たした表示を維持してください。
食品表示の責任者を決める
スタッフ全員がルールを理解していることが理想ですが、まずは食品表示に責任を持つ担当者を社内で決め、法令改正への対応窓口にすることをお勧めします。消費者庁や自治体の研修も活用して、知識を更新してください。なお、食品衛生法に基づく「食品衛生責任者」は、表示の担当者とは別の役割で、施設ごとに設置が必要です。
まとめ
食品表示法は、改正が重ねられている分野です。とくにアレルゲンの表示対象品目は近年拡充されており、「以前は問題なかった」表示が、今は不備になっていることもあります。
テナント出店の準備段階から食品表示の要件を確認し、保健所や食品衛生の専門家に相談しながら、表示の体制を整えることが、安定した事業継続の基礎になります。法令違反による回収命令や営業への影響は、事業者に大きな打撃を与えかねません。コンプライアンスを経営の基本に据えて、出店準備を進めましょう。
