居抜き物件は「造作の価値判断」がすべて
居抜き物件とは、前のテナントが使用した内装・厨房設備・什器などの「造作」がそのまま残っている物件です。スケルトンからゼロで内装工事するより初期コストを大幅に抑えられるため人気がありますが、造作の適正価格を判断できないまま交渉すると、老朽化した設備に高値をつかまされるリスクがあります。
1. 造作譲渡の仕組み
居抜き物件の造作は次の2パターンで引き継がれます。
パターンA:貸主(オーナー)から造作付きで賃貸される 前テナントが退去時に原状回復をしなかった場合、または貸主が買い取った造作を次の借主に再貸しするケース。この場合、造作はオーナー所有であり、賃貸借契約に含まれます(原則無償か保証金に含む形が多い)。
パターンB:前テナントから直接造作を買い取る 前テナントが造作を所有したまま退去し、次の借主に「造作譲渡契約」で売却するケース。相場は数十万〜数百万円と幅広く、交渉の余地が大きいです。
2. 造作評価額の算出方法
適正価格を判断するには、各設備・内装の「現在価値(時価)」を算出します。
減価償却を使った価値計算
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現在価値 = 新品価格 × (1 - 経過年数 / 耐用年数)
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主な設備の法定耐用年数の目安:
- 内装工事(木造):15〜20年
- 厨房設備・業務用冷蔵庫:10〜15年
- 什器・テーブル・椅子:5〜8年
- エアコン(業務用):13〜15年
例:3年前に80万円で取得した業務用冷蔵庫(耐用年数10年)
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80万 × (1 - 3/10) = 56万円
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ただしこれは「理論上の価値」です。実際の査定では状態・稼働状況・市場の中古相場を加味します。
3. 設備の現地査定チェックポイント
内見時に以下を確認し、劣化・不具合があれば減額交渉の根拠にします。
厨房設備(飲食業態)
- ガスコンロ・グリドル:バーナーの均一な着火、異臭の有無
- 業務用冷蔵庫・冷凍庫:温度の正常維持、ドアパッキンの劣化
- ダクト・換気扇:油脂の堆積・清掃状態(清掃費が発生する場合は控除対象)
- 排水管・グリストラップ:詰まり・清掃履歴
- フライヤー・スチコン:動作確認と傷・腐食の有無
内装・建具
- フローリング・タイル:割れ・剥がれ・染み
- 壁面・天井:シミ・カビ・塗装の剥がれ
- ドア・窓:開閉スムーズか、鍵の動作
- 造作棚・カウンター:ぐらつき・破損
設備全般
- 電気配線の容量(業態変更で足りるか)
- 給排水の位置(業態変更で移設が必要か)
- エアコン台数・冷却能力と坪数の適合
4. 価格交渉の進め方
STEP 1:査定リストの作成
内見後、設備ごとに「設置年次・状態・推定現在価値」を一覧化します。相手が提示する「造作一式〇〇万円」という金額の内訳を要求し、品目別に分解させることが交渉の第一歩です。
STEP 2:減額根拠の提示
不具合・劣化・業態適合性に問題がある設備については、修繕費や撤去費の見積もりを根拠に減額を求めます。
減額交渉の典型例:
- 「グリストラップに汚泥が蓄積しており清掃費5万円が発生するため5万円控除を要求」
- 「業務用冷蔵庫が7年経過の旧機種で中古市場価格は15万円のため、提示額40万円から25万円に変更を要求」
- 「ダクト清掃が未実施で清掃業者の見積が12万円のため控除要求」
STEP 3:不要な造作の撤去費用を控除
業態が異なる場合(例:前テナントが中華料理店→自分がカフェ)は、業務用中華レンジ等が不要になります。撤去・廃棄費用の見積もりを取り、その分を造作価格から引くよう交渉します。
STEP 4:交渉落としどころの設定
相手(前テナントまたは貸主)が提示した金額の60〜80%程度が現実的な妥結ラインです。大幅な値引き(50%以下)を求めると交渉が決裂するリスクがあります。最初の反論提示は「適正価値ベースの60〜70%」を目安にし、そこから双方の合意点を探ります。
5. 造作譲渡契約書の確認ポイント
口頭合意だけでなく、必ず「造作譲渡契約書」を締結します。確認すべき項目:
- 譲渡対象品目の一覧(「一式」という曖昧な表現は禁止、品目・数量・状態を列挙)
- 引渡し時の動作保証(引渡し日時点での稼働を保証する旨を明記)
- 不具合発見時の対応(引渡し後〇日以内に発見した不具合は売主負担で修繕 or 代金返還)
- 隠れた瑕疵の責任(引渡し前の使用に起因する故障・損傷の帰属)
特に「引渡し後は一切の責任を負わない」という条項は危険です。不具合のリスクを一方的に引き受けることになるため、最低でも「引渡し後30日以内に発見された設備の機能不全は売主負担で修繕する」という条項を入れるよう求めましょう。
6. 居抜き物件の隠れリスクへの対処
前テナントの造作撤去義務が残っているケース
前テナントが賃貸借契約上「造作を撤去して原状回復する義務」を負っているのに、次のテナント(自分)に造作を押し付けているケースがあります。貸主との賃貸借契約書で「造作の承継が認められているか」を必ず確認します。
設備のリース残債が引き継がれるケース
厨房設備をリースで導入していた場合、次のテナントにリース契約が引き継がれることがあります。引渡し前にリース会社への確認と、引継ぎ条件(残債額・月次リース料)の確認が必須です。
まとめ
居抜き物件の造作評価は「設備の現在価値算出」「現地での不具合確認」「撤去費用の控除交渉」の三段階で進めます。相手の提示額をそのまま受け入れず、品目別に査定して数字で反論することが適正価格での取得の鍵です。造作譲渡契約書には品目一覧・動作保証・不具合対応を必ず明記し、「引渡し後一切免責」という条項には応じないことが後のトラブルを防ぐ最大のポイントです。
