公正証書とは——公証人が作成する公文書
公正証書とは、公証役場で公証人が当事者の意思を確認したうえで作成する公文書です。私文書である通常の契約書と比べ、内容の証明力が高く、原本が公証役場に保管されるため改ざん・紛失のリスクがありません。
賃貸借契約を公正証書で作成する主な目的は次の2つです。
借主としては、特に1の認諾文言が自分にどう影響するかを理解しておくことが重要です。
強制執行認諾文言の意味——借主が必ず確認すべき条項
公正証書に「債務者は本契約に基づく金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する」旨の強制執行認諾文言を入れると、その公正証書は債務名義(執行できる証書)になります。
これにより、賃料や原状回復費などの金銭の支払いについて、貸主は訴訟を起こして判決を得る手間なく、いきなり差押えなどの強制執行ができます。
| 通常の私文書契約 | 認諾文言付き公正証書 |
|---|---|
| 未払い回収には訴訟→判決が必要 | 金銭債務は裁判なしで強制執行可 |
| 回収まで時間・費用がかかる | 迅速に差押え等が可能 |
注意したいのは、認諾文言が及ぶのは金銭債務に限られる点です。建物の明渡し(占有を解いて引き渡すこと)そのものは金銭債務ではないため、認諾文言があっても明渡しを直ちに強制執行することはできず、別途明渡しの判決等が必要になります。借主としては「賃料未払い=即差押えになり得る」という前提でキャッシュフロー管理を徹底することが大切です。
公正証書が必須となる契約——事業用定期借地権
通常の建物賃貸借や定期建物賃貸借(定期借家)は、公正証書でなくても有効に成立します。定期借家は「書面(電磁的記録を含む)」で契約し、期間満了で更新されない旨を書面で事前説明すれば足り、公正証書は要件ではありません。
一方で、事業用定期借地権(借地借家法23条)は、ロードサイド店舗などで土地を一定期間借りて事業用建物を建てる際に用いられますが、これは公正証書によって設定しなければ無効とされています。土地から借りて出店するスキームを検討する場合は、公正証書の作成が前提になる点を押さえておきましょう。
| 契約類型 | 公正証書 |
|---|---|
| 普通建物賃貸借 | 不要(書面も法律上は必須でない) |
| 定期建物賃貸借(定期借家) | 不要(書面+事前説明書面は必要) |
| 事業用定期借地権 | 必須(公正証書でないと無効) |
作成の手順と費用の目安
公正証書の作成は、おおむね次の流れで進みます。
- 当事者間で契約内容(賃料・期間・特約・認諾文言の有無など)を合意する
- 必要書類(本人確認書類、法人なら登記事項証明書・印鑑証明書、契約案など)を準備する
- 公証役場に案文を持ち込み、公証人と内容を調整する
- 作成日に当事者(または代理人)が公証役場に出向き、公証人が読み聞かせ・確認のうえ署名押印する
- 公証人手数料を支払い、正本・謄本を受け取る
公証人手数料は、契約の目的価額(賃料総額など)に応じて法令で定められた基準で算定されます。金額が大きいほど手数料も上がるため、事前に公証役場で見積りを確認すると安心です。代理人による作成も可能ですが、委任状や印鑑証明など追加書類が必要です。
契約交渉での現実的な対応
公正証書化や認諾文言は、貸主側から契約条件として提示されるのが一般的です。借主が一方的に拒否すれば契約自体がまとまらないこともあるため、実務では「内容を正確に理解したうえで受け入れ、リスクを管理する」姿勢が中心になります。借主側が確認・交渉すべき具体的なポイントは次のとおりです。
- 認諾文言の対象となる金銭債務の範囲を案文で確認する。賃料・共益費のみか、違約金・原状回復費・損害賠償まで含むのかで、リスクの大きさが変わります。
- 支払いが遅れた場合の催告や協議に関する条項があるか確認する。一度の遅延で直ちに執行に進む建付けか、是正の機会があるかは大きな違いです。
- 公証人手数料などの作成費用をどちらが負担するか、事前に合意しておく。
- 案文は作成日より前に受け取り、不明な条項は公証人や弁護士などの専門家に確認してから署名に臨む。当日に初めて全文を読む、という進め方は避けるべきです。
テナントが押さえるべきポイント
- 公正証書は証明力が高く改ざんに強い公文書。賃貸借では強制執行認諾文言と事業用定期借地で主に登場する
- 認諾文言があると、金銭債務は裁判なしで強制執行され得る(明渡しそのものには別途手続きが必要)
- 借主は、認諾文言の有無と効果を契約前に必ず確認し、未払いを起こさない資金管理を徹底する
- 定期借家は公正証書不要(書面+事前説明で足りる)、事業用定期借地は公正証書必須
- 手数料は目的価額で変動するため、公証役場で事前見積りを取る
公正証書付きの契約は、回収手続きの面で貸主に有利な反面、借主には強い拘束力を持ちます。条件を理解したうえで物件を選ぶことが大切です。senkyaku(千客テナント)では全国のテナント・店舗物件を検索でき、掲載する不動産会社へお問い合わせいただけます。契約条件まで見比べて検討したい方は、掲載中の物件情報をご活用ください。
