この記事の要点(先に結論)
- 店舗・事務所など「建物」のテナント賃貸借契約書は、印紙税の課税文書に該当せず収入印紙は不要(事業用・居住用を問わない)
- 印紙が必要になるのは主に 土地の賃貸借契約書(第1号の2文書) と 敷金・保証金など5万円以上の受取書(第17号文書)
- 駐車場は「更地の土地を借りる」なら課税、「機械式・建物内区画など施設を利用する」なら不課税と、契約の実態で分かれる
- 電子契約で締結すれば、課税文書に当たる契約でも印紙税はかからない
- 不課税の契約書に誤って貼った印紙は、税務署への過誤納確認手続で還付を受けられる
建物のテナント賃貸借契約書に収入印紙は不要
店舗・事務所・倉庫など、いわゆる「建物」を借りるテナント賃貸借契約書には、収入印紙を貼る必要がありません。印紙税は、印紙税法の別表第一に限定列挙された20種類の課税文書だけに課される税金です。土地の賃借権の設定に関する契約書は「第1号の2文書」として掲げられていますが、建物の賃貸借契約書はこの20種類のどれにも該当しないため、そもそも課税対象外(不課税)です。
「事業用だから課税される」「契約書1通につき200円の印紙が要る」といった説明を見かけることがありますが、建物のみの賃貸借契約書に関しては誤りです。事業用か居住用かで扱いが変わることもありません。普通借家契約だけでなく、定期建物賃貸借(定期借家)契約書も同様に不課税です。
ただし、次のようなケースでは別の判定が必要になります。
- 契約書の中に土地の賃借権の設定が含まれている場合(建物と土地を一体で借りる場合など)→ 第1号の2文書として課税される可能性
- 契約書や別発行の預り証に敷金・保証金・権利金の受領事実が記載されている場合 → 第17号文書(金銭の受取書)としての判定
つまり「建物賃貸借契約書だから常に印紙不要」と機械的に済ませるのではなく、契約書に何が書かれているかで判定するのが実務の要点です。
課税されるケース①:土地の賃貸借契約書(第1号の2文書)
事業用定期借地権の設定契約や、資材置き場・店舗用地として更地を借りる契約など、土地の賃借権の設定・譲渡に関する契約書は第1号の2文書として課税されます。
税額は契約書の「記載金額」に応じた段階税率です。ここでいう記載金額は、権利金・礼金など後日返還されないことが明らかな金額を指します。毎月の地代(賃料)や、返還が予定されている敷金・保証金は記載金額に含めません。
| 記載金額(権利金等) | 印紙税額 |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 10万円以下 | 200円 |
| 10万円超〜50万円以下 | 400円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 1,000円 |
| 100万円超〜500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 2万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 6万円 |
| 契約金額の記載がないもの | 200円 |
権利金の定めがなく地代だけを定めた土地賃貸借契約書は「契約金額の記載がないもの」として200円です。なお、不動産の譲渡契約書(第1号の1文書)には租税特別措置法による軽減税率がありますが、土地の賃借権設定(第1号の2文書)には軽減措置は適用されません。
契約書を2通作成して貸主・借主が1通ずつ原本を保管する場合は、それぞれの原本に印紙の貼付が必要です。
事業用定期借地契約の仕組みや借主側の注意点は、事業用定期借地契約の借主向けガイドで詳しく解説しています。
課税されるケース②:駐車場契約は「土地か施設か」で分かれる
テナント契約に付随しやすい駐車場契約は、印紙税の判定が分かれやすい典型例です。
- 更地(土地そのもの)を駐車場用地として借りる → 土地の賃貸借契約=第1号の2文書として課税
- 機械式駐車場・立体駐車場・建物内の駐車区画など、駐車場という施設を利用する → 施設利用契約であり不課税
- 車庫(建物)を借りる → 建物の賃貸借であり不課税
同じ「月極駐車場」でも、契約の対象が土地なのか施設なのかで結論が変わります。契約書の表題ではなく、何を貸借の対象としているかの実態で判定されるため、迷う場合は契約書を持参して所轄税務署に確認するのが確実です。
課税されるケース③:敷金・保証金の預り証(第17号文書)
契約締結時に貸主が敷金・保証金を受け取り、預り証や受取書を発行する場合、その書面は第17号の2文書(売上代金以外の金銭の受取書)に該当し得ます。記載金額が5万円以上なら1通につき200円、5万円未満なら非課税です。
なお、「営業に関しない受取書」は非課税とされています。株式会社など営利法人の貸主が発行する預り証は原則課税と考えるべきですが、個人の貸主については営業に当たるかどうかの判定が分かれる場合があります。個別のケースは所轄税務署や税理士に確認してください。
敷金・保証金そのものの会計処理(貸主・借主それぞれの仕訳や償却条件)は、敷金・保証金の会計処理ガイドで整理しています。
覚書・変更契約書・仮契約書の扱い
賃料改定や契約期間延長の際に交わす覚書・変更契約書も、表題ではなく記載内容で課税・不課税を判定します。
- 原契約が建物賃貸借(不課税)の場合 → 賃料改定や期間延長の覚書も原則として不課税
- 原契約が土地賃貸借(第1号の2文書)の場合 → 契約金額や期間など重要な事項を変更する覚書は課税文書に該当し得る
本契約前の仮契約書・予約契約書も同様で、土地の賃借権設定を約束する内容が含まれていれば、表題が「覚書」「確認書」であっても課税文書と判断されることがあります。本契約前の暫定的な合意の進め方は暫定契約(仮契約)の実務ガイドも参考にしてください。
電子契約なら印紙税はかからない
印紙税は「紙の課税文書を作成した」ことに課される税金であり、電磁的記録(電子契約)として締結された契約書には印紙税がかかりません。土地賃貸借契約や金銭の受取りをともなう書面でも、電子署名サービス上で締結すれば印紙は不要です。
土地の権利金が大きい契約では印紙税額も数万円単位になり得るため、電子契約化の節税効果は無視できません。加えて、原本紛失リスクの低減・遠隔地との契約締結・書類管理の効率化といった副次的メリットもあります。ただし電子契約の利用には相手方(貸主・管理会社)の同意とシステム対応が前提となる点に注意してください。
貼り忘れ・誤貼付への対応
課税文書に印紙を貼らなかった場合は、税務調査で指摘されると本来の印紙税額に加えてその2倍(合計で3倍相当)の過怠税が課されます。調査を受ける前に自主的に申し出た場合は、合計1.1倍相当に軽減されます。また、印紙を貼っていても消印(印紙と紙面にまたがる押印または署名)がない場合は、印紙の額面相当額の過怠税の対象になります。
逆に、不課税である建物賃貸借契約書に誤って印紙を貼ってしまった場合は、その文書の原本を所轄税務署に持参し「印紙税過誤納確認申請」を行うことで還付を受けられます。「貼ってしまったから仕方ない」で終わらせる必要はありません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 店舗や事務所の賃貸借契約書に収入印紙は必要ですか?
建物のみの賃貸借契約書は印紙税の課税文書に該当しないため、収入印紙は不要です。事業用・居住用の区別はなく、定期借家契約書も同様に不課税です。ただし土地の賃借権設定を含む契約は別判定になります。
Q2. 敷金や保証金の預り証に印紙は必要ですか?
記載金額が5万円以上の預り証・受取書は、第17号の2文書として1通につき200円の印紙が原則必要です。5万円未満は非課税です。個人貸主の場合は「営業に関しない受取書」として非課税になる余地があるため、判断に迷う場合は所轄税務署に確認してください。
Q3. 月極駐車場の契約書に印紙は必要ですか?
更地の土地を駐車場用地として借りる契約は土地の賃貸借(第1号の2文書)として課税されます。一方、機械式駐車場や建物内の駐車区画など施設の利用契約、車庫(建物)の賃貸借は不課税です。契約の対象が土地か施設かの実態で判定します。
Q4. 建物の賃貸借契約書に誤って印紙を貼ってしまいました。取り戻せますか?
取り戻せます。文書の原本を所轄税務署に持参して「印紙税過誤納確認申請」を行えば、誤って納付した印紙税の還付を受けられます。原本の提示が必要になるため、誤貼付に気づいた契約書は破棄せず保管しておきましょう。
まとめ
事業用テナントの印紙税は「建物の賃貸借契約書は不課税、土地の賃貸借契約書と5万円以上の受取書は課税」が判定の基本軸です。建物のみの契約であれば収入印紙は不要であり、貼ってしまった場合も過誤納確認手続で還付を受けられます。一方、事業用定期借地や駐車場用地など土地がからむ契約、敷金・保証金の預り証では課税の可能性を必ず確認してください。電子契約の活用は、課税文書についても印紙税を合法的にゼロにできる有力な選択肢です。
印紙税の課税文書の一覧・税額・手続は国税庁ウェブサイトで最新情報を確認できます。法改正が行われることもあるため、高額の権利金がからむ契約や判定に迷う文書については、締結前に税理士や所轄税務署へ相談することをお勧めします。
