建替えや自己使用、再開発などの事情で、貸しているテナントに立ち退きを求めたい場面があります。しかし普通借家契約では貸主都合の立ち退きは容易ではなく、進め方を誤るとトラブルや長期化を招きます。この記事では貸主・オーナー目線で、立ち退き交渉の法的な前提と進め方、注意点を整理します。契約終了の要件は借地借家法に基づきます(借地借家法・e-Gov法令検索)。
貸主都合の立ち退きには「正当事由」が必要
普通借家契約では、貸主が更新を拒絶したり解約を申し入れたりするには「正当事由」が必要です(借地借家法28条)。期間の定めのない契約を解約する場合は、解約申入れから6ヶ月の経過が必要とされます(同27条)。一方、定期借家契約であれば期間満了で終了するため、正当事由は不要です(契約類型の違いは事業用定期借家と普通借家の違いを参照)。
正当事由の判断要素(借地借家法28条)
正当事由は、次のような事情を総合的に考慮して判断されます。
- 貸主・借主それぞれが建物の使用を必要とする事情
- 賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況・現況
- 立退料などの財産上の給付の申し出
貸主側の必要性だけで当然に認められるものではなく、借主の営業への影響なども踏まえて判断される点に注意が必要です。
立退料は正当事由を補完する要素
立退料は、それ単独で立ち退きを実現するものではなく、正当事由を補完する要素として位置づけられます。借主の移転費用・営業補償・借家権の価値などを踏まえて申し出るのが一般的です。
立退料の相場観と算定の考え方
立退料には決まった相場や計算式がありません。営業補償・移転実費・造作の残存価値・借家権価格などを総合して個別に算定されるため、金額の幅は非常に大きく、業種・立地・営業実績によって大きく変わります。「一律の相場」を前提に交渉を始めると折り合わないことが多いため、個別事情を踏まえて算定し、必要に応じて不動産鑑定士や弁護士の意見を取り入れることをおすすめします。本記事では具体的な金額水準の断定は避けます。
立ち退き交渉の進め方(実務の流れ)
まずは貸主側の事情と方針を整理し、借主へ早めに打診します。感情的な対立を避け、移転先の確保や営業継続への配慮を示しながら、立退料や明け渡し時期を協議します。合意できた場合は、明け渡し時期・立退料・原状回復の範囲・清算方法を明記した合意書を取り交わします。退去時の原状回復の範囲でもめやすいため、募集・契約段階から範囲を明確にしておくと安全です(考え方は原状回復トラブルを防ぐ完全ガイドも参考になります)。
交渉が決裂したとき|調停・訴訟
任意の協議で合意できない場合は、裁判所の民事調停で話し合いによる解決を図る方法があります(民事調停・裁判所)。それでも解決しなければ、建物明け渡し請求訴訟で正当事由の有無が争われます。いずれも時間と費用がかかるため、早い段階で弁護士に相談し、見通しを立てておくことが重要です。借主側がどう対応するかはテナント立退き要求への対応ガイドも理解の助けになります。
トラブルを避けるための注意点(自力救済の禁止)
合意や判決を経ずに、貸主が一方的に鍵を交換したり、荷物を運び出したり、電気・水道を止めたりする「自力救済」は違法です。損害賠償や刑事責任を問われるおそれがあるため、必ず法的手続きに沿って進めます。契約の更新拒絶や解約の通知も、時期・方法を誤ると効力が争われるため、慎重に行います(借主側の視点はテナントの契約更新拒絶への対処法も参照)。
よくある質問
Q1. 立退料さえ払えば必ず立ち退いてもらえますか? いいえ。立退料は正当事由を補完する要素であり、それだけで当然に立ち退きが認められるわけではありません。貸主・借主双方の建物使用の必要性など、諸事情を総合して正当事由の有無が判断されます。
Q2. 立退料の相場はいくらですか? 一律の相場はありません。移転費用・営業補償・借家権価格などを個別に評価して算定され、業種・立地・営業実績で金額は大きく変わります。金額の目安を断定することは避け、個別に専門家の評価を得ることをおすすめします。
Q3. 定期借家契約なら立退料は不要ですか? 定期借家契約は期間満了で終了し、正当事由も不要なため、原則として立退料は必要ありません。ただし定期借家として有効に成立していること(書面契約・事前説明・終了通知などの要件充足)が前提です。
まとめ
普通借家での貸主都合の立ち退きは、借地借家法28条の正当事由が必要で、立退料はそれを補完する要素です。立退料に一律の相場はなく、自力救済は違法です。早めの打診と丁寧な協議、合意書の整備、必要に応じた調停・訴訟という段取りを踏み、専門家の助言を得ながら進めることが、トラブルを避ける最善策です。
参考(一次情報)
- 借地借家法(e-Gov法令検索)第27条・第28条
- 裁判所「民事調停」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 (住宅賃貸を対象としたガイドラインで、事業用テナントには原則として直接適用されません。原状回復の考え方の参考としてください)
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の事案に関する判断は弁護士等の専門家にご相談ください。