店舗・テナント物件を相続したものの、活用方法が決まらず空いたままになっているケースは少なくありません。売却せずに「貸す」という選択をする場合、名義変更(相続登記)や税金、既存契約の引き継ぎなど、押さえるべき手続きがあります。この記事では相続した店舗物件を貸し出すまでの流れを貸主・オーナー目線で整理します。
相続した店舗物件を貸すまでの全体の流れ
大きくは、①相続の確定(遺産分割)と相続登記による名義変更、②相続税など税務の確認、③既存の賃貸借契約の引き継ぎ確認(貸している場合)または新規募集、という流れになります。空室であれば募集条件を整えて掲載し、既に借主がいる場合は貸主の地位を引き継いで契約を継続します。
名義変更(相続登記)は2024年から義務化
相続した不動産を貸す・売る前提として、まず名義を相続人へ変更する相続登記が必要です。相続登記は令和6年(2024年)4月1日から申請が義務化されました。
相続登記の期限と過料
不動産を相続で取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。遺産分割が成立した場合は、成立した日から3年以内の登記が必要です。正当な理由なく義務に違反すると、10万円以下の過料の対象になります。すぐに遺産分割がまとまらない場合は、「相続人申告登記」という簡易な手続きを利用して、ひとまず申請義務を果たす方法もあります(法務局「相続登記が義務化されました」、法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。なお、2024年4月1日より前に開始した相続も義務化の対象で、3年の猶予期間が設けられています。
既存の賃貸借契約はそのまま引き継がれる
相続した物件に既にテナントが入っている場合、賃貸人(貸主)の地位は相続人に承継され、契約は原則としてそのまま継続します。借主に不利な変更を一方的に行うことはできず、賃料の受け取り口座の変更などを借主へ通知して運用を引き継ぎます。オーナーの死亡・相続に伴う借主側の権利関係はオーナー死亡・相続発生時の賃借人の権利と実務対応も参考になります。
相続にかかる税金|相続税と評価
相続した財産の総額が基礎控除を超える場合、相続税の課税対象になります。相続税の計算の流れは国税庁のタックスアンサーで確認できます(No.4152 相続税の計算)。
貸家・貸家建付地の評価
人に貸している建物とその敷地は、自分で使う場合より相続税評価額が下がる仕組みがあります。貸している建物の敷地(貸家建付地)は、自用地としての評価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じた一定割合を控除して評価します(No.4614 貸家建付地の評価)。建物自体も、借家権割合・賃貸割合に応じて評価が下がります。ただし控除割合は地域や賃貸状況で変わり、計算は個別性が高いため、具体的な評価額・税額は税理士に確認してください。本記事では具体的な金額の断定は避けます。
貸し出した後の税金|不動産所得と確定申告
物件を貸して家賃収入を得ると、不動産所得として原則、確定申告が必要になります。家賃収入から固定資産税・管理費・修繕費・減価償却費などの必要経費を差し引いて所得を計算します。相続で引き継いだ建物の減価償却の扱いなど、判断に迷う点は税理士に相談すると安全です。相続を含む収益シミュレーションはオーナー向け賃貸収入予測モデルの立て方、飲食テナントの相続・事業承継は飲食テナント経営の相続税対策・事業承継ガイドも参考になります。
空室の店舗を新たに募集する場合
借主がいない状態で貸し出すなら、募集条件を整えて掲載します。長く空いていた物件は設備の劣化や情報不足で決まりにくいことがあるため、賃料設定・初期費用・写真・引き渡し条件を見直すと反応が変わります。
よくある質問
Q1. 相続登記をしないとどうなりますか? 2024年4月1日から相続登記は義務化されており、取得を知った日から3年以内に申請しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります。すぐに分割協議がまとまらない場合は、相続人申告登記で暫定的に義務を果たす方法があります。
Q2. 相続した物件を貸すと税金は増えますか? 家賃収入は不動産所得として原則、確定申告の対象になります。一方、相続税の計算上は、貸している建物・敷地は自用の場合より評価額が下がる仕組みがあります。増減は状況によって異なるため、税理士に相談して試算するのが確実です。
Q3. 既にテナントが入っている物件を相続しました。契約はどうなりますか? 貸主の地位が相続人に引き継がれ、契約は原則そのまま継続します。借主に不利な変更を一方的に行うことはできません。賃料の振込先変更などは借主へ通知して運用を引き継ぎます。
まとめ
相続した店舗物件を貸すには、まず相続登記(2024年義務化・3年以内)で名義を整え、相続税や貸した後の不動産所得といった税務を確認します。既存の契約は貸主の地位を引き継いで継続し、空室なら募集条件を整えて掲載します。評価・税額は個別性が高いため、登記は司法書士、税務は税理士、契約実務は宅地建物取引士など専門家と連携して進めるのが安全です。
参考(一次情報)
- 法務局「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)」
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
- 民法(e-Gov法令検索・相続関係)
- 国税庁「No.4152 相続税の計算」
- 国税庁「No.4614 貸家建付地の評価」
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の登記・税務・契約に関する判断は司法書士・税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。